トランペフォーク
- 青央つかさ
- 2020年7月24日
- 読了時間: 2分
もし、生まれ変われるなら、貴方のトランペフォークになりたいな。
少しのメールと、少しの会話。それだけでは満足出来ない欲張りな私。貴方からすれば、ただの友達に対してそれ以上の面倒など、掛けていられないのだろうけど。
数年前に告白をして、振られて、それから私は大人しくしている。友達の振りをして、他の人と付き会ったり別れたりを繰り返して、貴方にもう気がない事をアピールしてみせた。
でもね、やっぱり好きなの。
初めて貴方の家へ訪れた時、貴方は私にお菓子を作ってくれた。紅茶の香りが口の中で溶ける、チョコレートのお菓子。チョコレートを作る際に必要な、トランペフォークを見せながら、フランスで買ってきたんだ、と嬉しそうに話す姿はとても愛らしかった。
大事に大事にしているトランペフォーク。人ではなく物に嫉妬を覚えた私。そのトランペフォークは、貴方にとってどんな存在なのかな? なんて、馬鹿な事を考えてみた。
テレビの話や趣味の話、楽しい会話の最中、私は突然口にする。貴方への気持ちを。
「前から好きだったの」
一瞬、その場の空気が変わった。
「……ごめん」
分かりきっていた答えに、涙を堪えて頷く。
「分かった、有難う」
真夜中も過ぎた頃、彼の部屋を出て、一人歩いて家路に着いた。堪えていた涙が溢れ、止まらなくて、自分はなんて惨めなのだろうと思った。
あれから数年、「トランペフォークは大事にしてる?」私の問いに、貴方は「うん。やっぱり俺はチョコ作ってるのが楽しい」と、絵文字も顔文字も無い、だけど充分に伝わる返事をくれた。
やっぱり、トランペフォークには敵わないな。
そう考えたら、また涙が溢れてきた。これ以上ないと思える相手に出会えた、けれど恋は実らなかった。トランペフォークが大事だと言う貴方の笑顔と、戯れに握ってくれた手の感触だけが、私の中に残っていて、消えなくて、それが悔しくて惨めで、ぼろぼろ涙を零した。我が儘なんて言わないから、またいつか、私にお菓子を作って下さい。楽しそうにチョコレートを作る貴方を眺めていたい。その笑顔を見て、私は泣きそうになるかもしれないけど、頑張って笑顔を浮かべるから……
もし、生まれ変われるなら、貴方のトランペフォークになりたいな。
END
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