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煙草

貴方の吸う煙草の煙を見つめると、凄く不思議な気分になるの。

私は少しでも貴方の香りを確かめたくて感じたくて傍へ行くのだけれど、煙草の香りが邪魔をする。でも考えてみれば、貴方の煙草の香りは貴方の香りであって貴方が煙草を吸えばそれは貴方の香りとなって私を優しく包む。

それは不快ではなく寧ろ嬉しい事であって、私は貴方の香りである煙草の香りに身を委ね煙草の香りである貴方の傍でうたた寝を始める。

紫煙が私を包むと貴方に抱かれている気がして心地いい。貴方は私を抱き締めてはくれないけど貴方の吸う煙草の煙は私を抱き締めてくれる。

私にもちょうだい、煙草をちょうだい、紫煙をちょうだい、温もりをちょうだい、貴方をちょうだい……

どんなに手を伸ばそうと貴方が私を求める事は無いから、貴方を感じられる煙草を、紫煙を求めるの。

でも貴方はとても優しいわ。

抱き締めてはくれないけど、求めてはくれないけど、手を伸ばしてはくれないけど、傍にいる事は許してくれる。

好き、好き、愛してる。

ねぇ、私がどれだけ貴方を好きか知ってる?

きっと、貴方がいなくなったら、生きていけない。それくらい好き。

貴方は? 貴方は私の事、どれくらい好き?



捨てられた吸殻が、灰皿から零れ落ちる

夢はそこで終わり

私は彼の愛用していた煙草を吸いながら、妄想世界から目を覚ます

彼のいない現実世界が、とても歪んで見える

煙草の香りである彼の香りが消える頃、彼の香りを追い掛けて目を閉じた


暗闇の中


見えたのは


煙草の火

 
 
 

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