昼のお散歩
- 青央つかさ
- 2020年7月24日
- 読了時間: 3分
今日は何をしようか考えながら、散歩に出た。風は温かくなってきたものの、まだ寒さは抜け切らず、家を出た時、やはり布団の中で一日過ごすかどうか迷ったが、久し振りに近所を回ってみるのも悪くないだろうと、一歩踏み出した。
魚屋のおやじに挨拶しながら、公園に寄ってみると、ベンチに見知った相手がいた。気付かれないようにそっと近付き、後ろから「わっ」と驚かせてみる。
「なぁ!?」
変な声を出して振り返った知人は、俺の姿を見ると軽く笑った。
「飯岡さんか、ビックリしたよ」
彼は俺の家の斜向かいに住む、六原さん。家は近所だが、時間が合わず、この頃会う機会が無かった。
六原さんはベンチの端に寄り、席を空けてくれたので、隣に座らせて貰った。
「あ、そういえば、奥さん子供産まれたんだって?」
六原さんと奥さんは、一年前から一緒に暮らしているのだが、今年めでたく出産したと、隣家の矢巾さんから聞いてきた。
「知ってた? 昔は子供なんて、と思っていたけど、いざ子持ちになると、可愛くて仕方ないよ」
とても幸せそうな様子を見ていると、こっちまで幸せになる。奥さんとも何度か会った事があるけど、とても綺麗な方だし、子供も奥さん似なら、将来有望だろう。
「今度、家においでよ。嫁にも会わせたいし、子供も見せたい。飯岡さんなら、うちの人も歓迎するさ」
「そうだな。適当な時に、そっちに行くよ」
これで今週の予定が一つ出来た。毎日暇なのもどうかと思うし、斜向かいとはいえ、偶には出掛けるのもいいだろう。
「もうこんな時間だ。じゃあ飯岡さん、また今度」
六原さんは手を小さく振って、公園から去って行った。俺は、さて、どうしようか……このまま、ここで時間をを潰すにも限界があるし、俺も帰るか。
家路に着くと、隣家の矢巾さんが声を掛けてきた。
「珍しいね、こんな時間に散歩なんて」
「あぁ、偶にはね」
俺は典型的な夜行性なので、あまり昼に起きない。だから、六原さん同様、矢巾さんとも会う機会があまり無い。
「矢巾さんは、今帰り?」
「うん、今日は外で食べてきたから。その帰り」
「なら、一緒に帰りましょうか」
「男二人で帰宅ってのも寂しいねぇ。可愛い子がいれば文句ないのに」
矢巾さんは女好きで有名なのだが、過去に奥さんはいたらしい。子供だっていたと聞くが、結局別れてしまい、今では奥さんとも子供とも疎遠で、モテない独身として生きている。子供は一人立ちしているようだが、会うつもりは無いようだ。そこは、六原さんを見習った方がいいかもしれない。
「可愛い子といえば、最近、ここらに引っ越してきた子が、評判良くてさ。俺も一回見たけど、かなり可愛いんだよ」
近所とのネットワークも凄く、こういう情報も直ぐに仕入れてくる。
「俺は、色恋沙汰はまだいいかな」
「飯岡は疎いよなぁ。もっとガツガツ行かないと、一生嫁出来ないぞ」
「それもいいかな、別に」
他の知人にも色々言われるが、そういう事には本当に疎い。それでも困らないから仕方ない。
春に入り、浮かれた話の一つや二つ、あってもいいような気もするが、今回はそんな話も無く、流れるままに過ごしてしまった。子供は欲しいという気が無い事も無い。まぁ、それこそ、流れに任せていれば、奥さんも子供も出来るだろう。
そんな会話をしていたら、家に着いた。矢巾さんは、近所の可愛い子を頑張って落とすんだ、といいながら家の中へ入っていく。
俺も家の中へ入り、残っていたご飯を食べてからリビングに行くと、主人の膝に座る。
「今日はお散歩してきたの? 楽しかった?」
頭や耳の裏を撫でられ、俺は気持ちよさそうに
「にゃあお」
と、鳴いてみせた。
END
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