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狂おしい愛を君へ

 最後に彼女の目に映るものが、俺であるように……


 愛して、愛して、愛して、早く俺のものになればいいのに。

 部屋には一体のマネキンがある。ウィッグを被せ、服もちゃんと着せてある。それは彼女。俺の愛する彼女。毎晩マネキンに肌を寄せては、最後に首を絞める。殺したい、殺してやりたい、俺だけを見つめて死んでほしい。


 大学のOBとして、参加した飲み会に彼女はいた。愛くるしい笑顔と人懐っこさから、俺は直ぐに恋に落ちた。

 なんとか連絡先を交換し、やり取りを続けるが、相手にとって俺はいい人止まりなのか、中々発展しない関係にもどかしさを覚えていた。

 誕生日には彼女の好きなカーネーションの花束を贈り、クリスマスにはブランド物のアクセサリーも贈った。たまに二人きりでランチに行ったり、酒も飲み交わしたりもした。なのに何故、彼女は俺を見てくれないのだろうか。

 その滑らかな肌に指を這わせ、少し毛先の痛んだ髪を撫で、淡いピンクの唇を奪い、俺のものにしたかった。

 頭の中で何度彼女を犯した事だろう。丁寧に奉仕する姿も、白濁に塗れた姿も、指先の届かない奥へと触れた時の表情も、すべてを想像する事が出来た。

 妄想はどんどん膨らみ、俺を蝕んでいく。早くこの手で抱き締めて、愛を囁こう、そして二人の時間を共に過ごそう。綺麗な君を汚したい。ぐちゃぐちゃにしてやりたい。そればかり考えていた。


 しかし、今年のクリスマスが近付いてきた頃、彼女の口から衝撃の言葉を耳にする。

「彼氏が出来たから、もう、贈り物とかやめにしてもいいかな?」

 かれし? それは一体なんなんだ?

「いつも高価な物貰っておいて悪いけど、今年は彼氏と一緒に過ごしたいんだ、今までありがとうね」

 あっさりとしたものだった、それだけ告げると、俺の返事など待たずに、いつもの可愛い笑顔でバイバイと手を振り去って行く。

 かれし? どういう事なんだ?

 頭の中が酷く混乱している。あんなに一緒に過ごしてきたのに、プレゼントも贈ったのに、二人でデートもしてきたのに、何故他の男の元へ行ってしまうのだろうか。彼女が分からない、分からなくて、それでも愛おしくて、同時に憎くて堪らなかった。

 何かの塊が、ドス、と落ちた。

 彼氏と付き合ってからも、彼女からの連絡は途切れなかった。やはり、俺はただのいい人でしかないのだと思い知らされた。

 ドロドロした感情は妄想を更に掻き立てた。嫌がる彼女を無理矢理押さえつけ、服を破き、何度も深くを抉った。悲鳴が聞こえる、耳の奥で、俺を拒絶する声が聞こえる気がした。

 妄想は現実にはならない。だが、少しでも近付きたくて、ある日、マネキンを買った。ガラス玉の綺麗な瞳が俺を見つめると、本当に彼女が俺を見てくれているようだった。

 愛しているよ、心の底から、愛しているよ。

 マネキン相手に呟きながら、それを抱く。欲望をぶつけるにはちょうど良かった。

「俺だけを見ていればいい、俺だけを」

 マネキンの首に手を掛ける、彼女の首を絞める瞬間を想像して、指に力を込める。あぁ、今君の瞳には俺しか映っていないんだね、なんて幸せなんだろう、そう、このまま俺だけのものになればいいんだ、君の最期には俺だけが存在するんだ……

 君も死ぬのかい? このマネキンのように冷たくなるのかい?

 いつか彼女は男と人生を歩むのだろう、男と体を交わらせ、子を産み、家庭を築くのだろう。それがどうしても許せなくなる時がいつか来るかもしれない、そうなったら俺もどうなるか分からない。妄想は現実にはならない。ならないのなら、してしまえばいい。

 そう、君の眼球には俺だけが映っていなければいけない。塊が俺を蝕んでいく。この体に纏わりつくものはなんだ? 欲望も憎悪も、嫉妬も、愛情も、慈悲も、すべてが体の中を巡っている。

 君が他の男を見るくらいなら、この手で首を絞めたい。


 狂おしい程の愛は、君に捧ぐ。




END

 
 
 

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